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<<   作成日時 : 2006/09/08 00:51   >>

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ストリッピングボルタンメトリーによる土壌汚染の重金属分析技術

1.はじめに

土壌汚染対策法案が実施されてから約3年ほどが経過した。実施年度は土壌中重金属の測定法に対する関心が高まってはいたが業務として重金属測定機会がさほど多くなかったように見受けられる。しかしながら、東京都が公式に土壌汚染の迅速簡易分析技術に関する一般公募を行う(参照アドレス:http://www.metro.tokyo.jp/INET/BOSHU/2005/08/22f8f100.htm)など、都市部における再開発の流れと連動し、土壌汚染のなかでも重金属関する検体数の大幅な上昇が業界の注目を集め始めている。

重金属迅速分析法に貢献するであろういくつかの手法について過去のブログ誌面において紹介した。今回は、過去に紹介技術を応用して、東京都公募向けに開発した土壌中重金属の迅速検出手法について概要をまとめた。本手法は土壌中重金属汚染のなかの、Pb、Cd、Asの汚染判定に充分貢献しうると考えている。とりわけヒ素の高感度検出についての既出の情報が少ないと思われるので、ヒ素の実際の検出手法を中心に解説する。

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2.土壌中重金属の汚染状況の判定について

土壌汚染対策法(以降「対策法」と略す)によれば、土壌中金属の測定法は、環境庁告示46号(環告46)に準拠した水での6時間振とう溶出試験と、1M塩酸2時間振とう抽出による含有量試験を行うことになっている。このような背景から、実際に重金属による汚染状況を詳しく調査し、マッピングを行う場合には、この6時間、2時間の長時間抽出を以下に短縮できるかがポイントとなる。また抽出液はサンプリング現地で調製され、さらにその場で検出可能なオンサイト分析が出来れば理想である。

対策法における検出手法は、AAS、ICPによる。しかしながらこれらの分析機器はガス配管をともなう実験室での設置が必要である。小型で可搬性があり、バッテリー駆動も可能であるボルタンメトリーに着目し、これを対策法に適用できるよう、簡易抽出を含めた前処理方法、検液調製方法について検討した。


3.ASVとヒートブロックを利用した土壌中重金属のスクリーニング法

3−1.ASV装置の特徴

ボルタンメトリーを採用しているシステムは、本体をコンパクトに設計可能である。初期導入コストはICP-MSの約10分の1程度である。消費電力も少なく、ポータブルタイプでは、PCバッテリー駆動による長時間稼働も可能である。どこでも測定が行え、屋外、屋内どちらに置いても運用可能である。測定時に必要なものは緩衝溶液であるため、1検体あたりのランニングコストが安価である。

本装置は、電気化学に基づく検出手法である。陰極、陽極を利用し、電極表面における金属イオンの析出と再溶出を繰り返すことによる電子のやりとりを利用する。

金属イオンのやりとりは、一般に電解セルと呼ばれる測定溶液がはいる容器と、ポテンショスタットと呼ばれる、参照電極、作用電極を備えたユニットの間で行われる。

電解セルにセットされた電極において、電極がマイナスにチャージされると、セル内の溶液中に存在するフリーの金属イオンが、このマイナスにチャージした陰極に析出される。このときに、金属イオンが複数析出される。金属析出時の金属種の選択性はない。しかし、析出後に電極の電位を段階的にプラス方向にシフトしていくと、個々の金属種特有の電位において、特定イオンが電極表面から再び電解液中へ再溶出する。このとき、電極間に微量電流が流れる。わずかnAレベルで発生するシグナルをポテンショスタットで読みとることにより、個々の微量イオンを検出することが可能である。

SVで利用する作用電極では、電極表面において金属析出・溶出を繰り返して連続測定をするため、一定の測定回数ごとに電極を研磨する必要がある。市販装置によっては、この電極研磨による表面摩耗のために電極寿命が長くないという弱点があった。本装置では、この弱点を回避するために、電極表面に薄膜金属をコーティングする技術を採用した。

金属イオンのやりとりは、薄膜コーティング上でやりとりされるため、電極本体を保護できる利点がある。サンプル測定時に、金属薄膜が汚れたときには、汚染した薄膜を磨き落とし、あたらしく金属薄膜をメッキし直せばよい。このことにより、常に新しい電極表面を保ち、高い検出感度の維持が可能である。さらに、本体を痛めないため、電極寿命を飛躍的に長くできる。

このように、作用電極の電位のコントロールにより得られたシグナルを増幅・波形処理して得られたグラフ化をボルタモグラムと呼ぶ。専用の波形処理ソフトにより、ピーク面積、高さを求めることが出来る。イオンの濃度とピーク面積、あるいはピーク高さの関係をプロットしていけば、検量線によりイオン濃度を算出することが可能である。

イオンの定量は、あらかじめ登録しておいた絶対検量線により、概算値を半定量することが可能である。迅速性が求められるときには、非常に有効である。また、サンプルマトリックスの影響を相殺して、より精度の良い定量値を求める場合は、測定試料にその場で直接標準試薬を添加して標準添加法により計量できる。標準添加法を簡単に行える点も本システムの特徴である。


3−2.ヒートブロックを利用した迅速抽出法

対策法におけるボトルネックは、6時間抽出、2時間抽出という抽出時間の長さにある。これは、雨水による土壌浸食、直接摂取による消化の影響をシミュレーションしたものであり、自然現象に近づけるためにはある程度の抽出時間が必要と思われる。

しかしながら、スクリーニングという別の観点から考えば、汚染しているかどうかを短時間で判定する技術が必要とされる。そこで、この抽出時間をどれだけ短くして公的手法との相関を得られるかが簡易法の目的となる。当然コストも重要である。

抽出時間を短縮するために、ヒートブロックによる予備加熱を検討している。あらかじめ抽出液を暖めておき、70℃程度にしておく。土壌試料は、ディスポーザブルのPPチューブに一定量とり、あらかじめ加温しておいた抽出液を加える。その後一定時間加温を維持したのち、小型振とう器により一定振とう速度で振とう抽出を短時間で行う。一定時間加温+短時間振とうにより、公定法により近い抽出液を得ることが可能になる。これにより、測定時間は、水の6時間抽出から30分抽出へ、1M塩酸の2時間抽出から5分抽出へと大幅に短縮された。

抽出土壌は、ディスクフィルターでろ過を行い、ASV測定に用いる。ASVでは、測定に適した緩衝溶液の中での検出が必要である。そこで、抽出液を一定量採取し、あらかじめ作成しておいた高濃度の緩衝溶液をそこに添加する。最終的に50ml程度の測定溶液を完成させる。


4.CuイオンのAsピーク測定妨害と対処方法について

本システムを使って検討を重ねた結果、As測定時にCuイオンピークがそれを妨害することが明らかになった。Cuが少しでも存在していると、CuのボルタモグラムがAsのそれに大きく重なり、低濃度のAsの場合ほどCuピークがAsピークをほとんど飲み込んでしまう。このようなケースに備えて、土壌抽出液からCuイオンを除く操作が必要になった。

Cuピークを取り除く方法としては、EDTA溶液によるマスキングか、物理的な除去が考えられた。マスキングによる手法は、完全にCuピークを消失させることが出来ず採用には難があるように思われた。そこで、物理的にCuイオンを取り除き、Asイオンに反応しない吸着剤を選定した。

Cuの吸着剤として、近年金属捕集や精製での利用が期待される分子認識ゲルを利用した。今回は、市販のシリーズの中から、塩酸酸性中でCuをトラップし、かつAsを保持しないという条件に当てはまる、AnaLig TE-03を用いて、このゲルを使い捨てカートリッジに充填したSPEカートリッジを自作し、抽出液の後処理への適用を試みた。

AnaLig TE-03カートリッジは、使用マニュアルに従い、あらかじめ6M塩酸でリンスを行った後、実験に使用した。ディスクフィルター通過後の土壌抽出液をこのカートリッジに通過させ、通過液をASVで測定した。これにより、非常に簡単な操作で土壌抽出液中からCuイオンピークの影響を完全に取り除くことが可能になった。この処理は、水抽出液、1M塩酸抽出液、どちらの試料に対しても有効であった。


4.実試料への適用

本手法は、土壌を始め様々なサンプルに適用可能である。以下に実際の土壌試料の適用とその他の用途の可能性についてまとめた。

4−1.土壌試料

今回検討した手法を実際の土壌抽出液にAsを添加した模擬試料や、市販の認証標準土壌を用いて検証した。実際に得られたボルタモグラムは、妨害ピークがない非常にきれいなものを得ることが可能である。また、ICP発光分析との相関性も良好であった。

4−2.排水・工業用水

微粒子のある場合、事前にフィルターろ過(0.45μm)を行う。水道水よりも希釈率を上げる必要がある。通常10倍から50倍程度行う。有機溶媒が20%以上混入している場合は、有機溶媒比率が10%以下になるように希釈率を考慮する。非水系の溶剤の場合は、酸性溶液に抽出するか、固相抽出により、金属イオンを酸溶液分離してから測定する。排水には、通常の水道水と違って、高濃度Fe、Ca、Na、などの共存マトリックスが存在するケースがある。たとえば、塩濃度が高いと、既存測定機器の原子吸光やICP発光による測定では、試料吸引ノズルでの塩の析出や、測定干渉により、微量重金属の測定が阻害される。一方、ボルタンメトリーでは、溶液中に電極を接触させるだけなので、吸引ノズルや噴霧による影響などを考えずに、簡単に測定することが可能である。元素特有の測定電位を用いているので、共存元素の影響もうけにくい。従って、高マトリックスの液体試料でも比較的簡単に選択的な検出が可能である。


4.まとめ

以上、土壌、地下水を評価するためにきわめて有効と思われる手法として、ヒートブロック抽出+固相抽出処理+ストリッピングボルタンメトリーを組み合わせた物について、解説した。これらここの手法は、簡単な操作であり、組み合わせにより大きな効果が得られる点が特長である。とくに迅速に微量元素を検出できるため、今後、より需要が大きくなるであろう、土地開発の現場や、土壌汚染調査に、本手法の応用が期待される。

参考文献
1) 環境浄化技術、Vol.2、No.9、2003
2) 水環境学会誌、Vol.27、No.11、p715-720、2004
3) R.M Izatt, J.S. Bradshaw, et al, Americal Laboratory, 28-Dec, 1994
4) Michael Sperling, et al, Spectrochimica Acta, Part B, 51, 1875, 1996
5) E ric Hosten, et al, Analytica Chimica Acta, 392, 55, 1999






過去のボルタンメトリー関連記事はこちらからジャンプ出来ます。


ASVメーカー情報↓
http://sampleprep.at.webry.info/200503/article_10.html

ASV装置原理の紹介↓
http://sampleprep.at.webry.info/200602/article_4.html

医薬品への応用↓
http://sampleprep.at.webry.info/200502/article_18.html

ASVヒ素検出初期検討要旨
http://sampleprep.at.webry.info/200506/article_3.html

ASVによる地下水・土壌スクリーニング↓
http://sampleprep.at.webry.info/200502/article_23.html

ASVのための土壌抽出実験↓
http://sampleprep.at.webry.info/200511/article_10.html

ASV実験奮闘記↓
http://sampleprep.at.webry.info/200511/article_16.html




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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
はじめまして。のまりえ、と申します。
実は今まさに、ヒ素の迅速分析と格闘しておりまして、
ボルタンメトリーでの感度が安定しないことで悩んでおります。
貴殿のお話は大変勉強になりました。また、読みに参りますのでよろしくお願いいたします。
のまりえ
2006/12/09 02:22

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